採用難の時代に、旅行・ホテル業界がシステム投資を後回しにしてはいけない理由
来月から入る新人、誰が見る?」。シフト表を前にしたフロントマネージャーの問いに、すぐ手を挙げられる人はいません。ベテランは夜勤明け、もう一人は宴会の応援。ようやく採用が決まったのに、その一人を迎え入れる余力が現場に残っていない。いまホテル・旅館で起きている人手不足は、多くの場合この形をしています。
採用が難しい時期ほど、システム投資は「人が揃ってから考えよう」と後回しにされがちです。本記事では、その順番が逆である理由を、立ち上がり・教育負荷・知識の流出という3つの損失から示し、今いる人数のうちに整えるべきことを3つのステップで提案します。
この記事の要点
- 採用難の本当の損失は、採れないことより、採った人が育つ前に辞めて知識が流出することにあります。
- 立ち上がり・教育負荷・知識流出の3つの損失から、システム投資の先送りが高くつく理由を示します。
- 新人の質問を記録することから始める、今いる人数で着手できる3つのステップが分かります。
目次
「人が揃ってから整える」はもう成り立たない
本当の損失は「採れない」より「育たない」
システム投資は人を活かすための投資
後回しにするほど高くつく3つの理由
今いる人数のうちに整える3つのステップ
まとめ:システム投資を採用活動の一部に
人が揃ってから整える」という順番は、もう成り立たない
採用難が続くいま、「まず人を採り、落ち着いてから業務を整える」という順番は現実的ではなくなっています。人が揃う日を待っているあいだに、整えるための余力そのものが現場から失われていくからです。
ホテル・旅館の現場を思い浮かべてください。フロント、コンシェルジュ、予約、宴会、それぞれに担当がいるように見えて、実際には少人数が持ち場を掛け持ちしています。1人が退職すると、その穴は残ったメンバーのシフトで埋めるしかありません。夜勤の回数が増え、休憩が削られ、「業務の見直しをしよう」という会議は真っ先に延期されます。
旅行会社やDMCでも構図は同じです。インバウンド需要が戻り、問い合わせや手配の件数は増えています。一方で、旅程を組み、手配先と調整し、ゲストの細かな要望に応えられる人材は、すぐには増えません。需要の回復と人材の回復には時間差があり、その差を埋めているのは、いま現場にいる人たちの残業と経験です。
この状況で「人が揃ってから」を待つと、何が起きるか。揃う前に、支えているベテランが疲弊します。採用難は一時的な波ではなく、前提条件として向き合うべき環境だと捉えたほうが、打ち手を誤りません。
採用難の本当の損失は、「採れない」ことより「育たない」こと
採用難というと「応募が来ない」「内定を出しても辞退される」といった入口の問題に目が向きがちです。しかし経営として見落としやすいのは、採用できた人が戦力になる前に辞め、そのあいだにかけた時間が丸ごと失われることです。損失は大きく3つに分けられます。
損失1:戦力化までの期間が長い
ホテルのコンシェルジュ業務を例に取ります。周辺のレストランの特徴、予約の取り方のコツ、リピーターのゲストが前回何を好んだか、手配先の担当者は誰か。こうした情報は、ベテランの頭の中、個人のメモ帳、過去のメールに散らばっています。新人がゲストから「今夜、個室のある和食店を」と頼まれても、どこを見ればよいか分かりません。結局、毎回誰かに聞くことになり、一人で対応できるようになるまでの期間が延びていきます。
損失2:教える側が消耗する
新人が質問する相手は、いちばん忙しいベテランです。チェックインが重なる時間帯に「この手配先の連絡先はどこですか」と聞かれ、手を止めて答える。新人のミスを後からフォローする。こうした時間はどこにも記録されませんが、確実にベテランの余力を削ります。人を採ったはずなのに現場が楽にならない、という感覚の正体はここにあります。
損失3:辞めた人と一緒に、知識も出ていく
採用難の時代は、裏返せば転職しやすい時代でもあります。経験を積んだスタッフほど、他の施設や他業界から声がかかります。そのスタッフが退職するとき、引き継ぎに使える時間はせいぜい数日です。長年かけて蓄積した手配先との関係や、ゲストごとの配慮のポイントを数日で文書化するのは、現実には不可能です。
さらに、新人の側から見た職場の印象も無視できません。入社してみたら、業務の手順は口頭で、情報は個人のファイルにしかなく、何を聞けばよいかも分からない。この状態は、早期離職の引き金になりやすい環境です。採用にかけた広告費や面接の時間も、辞められた時点で回収できなくなります。
システム投資は「人を減らす投資」ではなく「人を活かす投資」
採用難の時代のシステム投資は、人件費を削るための手段ではなく、採った人を早く戦力にし、辞めた人の知識を会社に残すための手段として位置づけるべきです。評価の物差しを変えると、投資の優先順位が変わります。
従来、業務システムの導入は「何時間の工数が削れるか」で判断されてきました。もちろん工数は大切な指標です。ただ、採用難の環境では、次の2つの問いのほうが経営判断に直結します。
新しく入ったスタッフが、一人で業務を回せるようになるまでに何か月かかるか
経験の長いスタッフが明日辞めたとき、その人の知っていたことのうち、何が会社に残るか
この2つに答えられない状態が、いちばんのリスクです。
ここで、Excelや共有ドライブ、Notionのような汎用ツールで足りるのではないか、という疑問が出るのは自然です。実際、情報を置いておく場所としては十分に機能しますし、少人数で扱う情報が限られていれば、これで回る施設もあります。
限界が出るのは、情報が業務の流れから切り離されて置かれるときです。手配の依頼を受け、手配先に連絡し、確定を確認し、ゲストに伝える。この流れとは別の場所に「レストラン情報まとめ」のファイルがあると、更新は忙しい日から順に止まっていきます。新人はどのファイルが最新か分からず、結局また人に聞くことになります。
仕組みに残った知識だけが、人の入れ替わりを越えて会社に残ります。だからこそ、知識は業務の流れの中で、自然に記録されていく形にしておく必要があります。
後回しにするほど高くつく3つの理由
システム投資は先送りしても目に見える損失がすぐには出ないため、後回しにされやすい投資です。しかし採用難のもとでは、先送りした分だけ、後から払うコストが膨らんでいきます。
理由1:知識は毎日、特定の人に溜まり続ける
ベテランが今日対応した案件の工夫は、記録しなければ今日もその人の中にだけ残ります。属人化は止まっている状態ではなく、毎日少しずつ進んでいる状態です。1年後に仕組み化しようとすれば、棚卸しすべき暗黙知は1年分増えています。
理由2:導入の負荷は、人が少ないほど重くなる
新しい仕組みを入れるには、既存の情報を移し、使い方を覚え、運用ルールを決める時間が要ります。人がさらに減ってからでは、この時間を捻出できません。逆説的ですが、人手不足を感じている今が、これ以上減る前の、いちばん余力が残っている時期です。
理由3:業務環境は、採用で選ばれる理由の一つになる
応募者にとって、入社後の働き方を具体的に想像できる材料は多くありません。面接の場で「予約や手配はこのシステムで管理していて、過去の対応履歴も案件ごとに見られます」と説明できる施設と、「慣れれば分かります」としか言えない施設では、伝わる安心感が違います。業務環境の整備は、人を採ったあとの話であると同時に、採るための材料でもあります。
今いる人数のうちに整える3つのステップ
大がかりな導入計画から始める必要はありません。今の業務を回しながら着手できる順番で整えていくのが、人手が足りない現場には現実的です。
ステップ1:新人が最初の1か月で聞いた質問を記録する
新人が誰かに聞いた内容は、その職場の暗黙知の一覧そのものです。「この手配先には電話とメールのどちらで連絡するのか」「リピーターの好みはどこで分かるのか」。質問をそのまま書き留めておくだけで、どの情報が仕組みに乗っていないかが見えてきます。次に新人が入るときの準備材料にもなります。
ステップ2:「辞めたら困る人」の頭の中を、業務単位で棚卸しする
人単位ではなく業務単位で書き出すのがポイントです。レストラン手配、送迎手配、記念日対応といった業務ごとに、判断の基準、使っている連絡先、過去の失敗例を整理します。ベテランに「全部書いてください」と頼むと負担になるため、1業務ずつ、15分程度の聞き取りで区切ると続けやすくなります。
ステップ3:情報を「置き場所」ではなく「業務の流れ」に結びつける
棚卸しした情報を、依頼から手配、確認、記録までの流れの中で参照・更新できる形にします。ここで、業務基盤となるシステムが選択肢に入ります。
旅行・ホスピタリティ業界向けのクラウド型業務管理サービスであるTRAVESENSは、案件ごとに予約手配の状況を一元管理し、旅程と見積を自動で連動させます。周辺の施設やアクティビティの情報はデータベースとして登録し、次の案件で検索して再利用できるため、ベテランが一度登録した情報を新人がそのまま使えます。開発元のTOKIはインバウンドのラグジュアリートラベルを手がける旅行会社で、自社の業務課題を解くために作った社内ツールが原型です。
一方で、すべての施設に業務基盤が必要なわけではありません。客室数が少なく、定型的な対応が中心で、スタッフの入れ替わりもほとんどない施設であれば、共有フォルダとテンプレートの整備で十分な場合もあります。コンシェルジュ対応や手配、オーダーメイドの要望が多く、少人数でそれを回している施設ほど、仕組みに知識を残す投資の効果は大きくなります。
まとめ:システム投資を、採用活動の一部として考える
採用難の時代に問われているのは、何人採れるかだけではありません。採った人が何か月で一人立ちできるか、そして辞めた人の知識がどれだけ会社に残るかです。この2つは、人を増やすだけでは改善しません。
求人広告を出す、紹介会社に依頼する、待遇を見直す。こうした採用の打ち手と同じ並びに、業務の仕組みづくりを置いてみてください。新人の質問を記録することから始めれば、明日からでも着手できます。人が揃うのを待つのではなく、少ない人数でも知識が積み上がる職場をつくること。それが、採用難のなかで現場とゲストの体験を守るための、最も確かな備えです。
人が替わっても、知識は残る。
手配の状況や周辺施設の情報を案件ごとに残し、次の担当者が検索して再利用できます。新人が一人で回せるまでの距離を、実際の画面でお確かめください。
まずは、実際の画面でご体験ください
無料デモを申し込む