旅行会社向けCRMだけでは解決できないこと

「CRMを入れたのですが、現場の作業量は変わっていません」。導入から半年ほど経った旅行会社から、こうした相談を受けることがあります。顧客情報は整理され、営業の進捗も見えるようになった。それでも、担当者の残業時間はほとんど動いていない、という状態です。

これはCRMの機能不足ではありません。多くの場合、CRMは期待どおりに動いています。問題は、CRMが管理している軸と、旅行会社の実務が回っている軸が違うことです。本記事では、この軸のズレがどこで表面化するのか、放置すると何が起きるのか、そして自社がどちらの課題を抱えているかの見分け方を整理します。

この記事の要点

  • CRMを入れても現場の作業が減らないのは、機能不足ではなく管理の軸がずれているためです。
  • 顧客軸のCRMと案件軸の旅行実務がぶつかる、見積・旅程・手配の3場面を解説します。
  • 自社の課題が顧客軸か案件軸かを見分ける3つの質問と、使い分けの考え方が手に入ります。

目次

  1. CRMを入れても作業量が減らない現象

  2. 原因は「顧客軸」と「案件軸」のズレ

  3. ズレが表面化する3つの場面

  4. 放置すると入力だけが増える場所になる

  5. 自社の課題を見分ける3つの質問

  6. まとめ:CRMを外すのではなく分ける

  7. CRMを入れても、現場の作業量が減らないことがあります

はじめに確認しておきたいのは、CRMが優れたツールであるという点です。

顧客情報の一元管理、問い合わせ履歴の記録、商談パイプラインの可視化。誰がいつ何を言ったかが残り、担当者が変わっても関係の経緯を追える。営業活動の抜け漏れが減り、経営層は受注見込みを数字で把握できる。これらは、旅行会社にとっても確かな価値があります。リピーター施策の設計、法人顧客の担当者管理、エージェントとの継続的な関係の記録。こうした場面では、CRMは正しい選択です。

それでも、導入後にこういう声が出ることがあります。

「顧客の情報は見られるようになった。でも、いま進んでいる案件がどこまで進んでいるかは、結局担当者に聞かないと分からない」

「CRMに入力する時間が増えただけで、見積を作る時間も旅程を作る時間も減っていない」

この現象は、CRMの導入を失敗と呼ぶべきものではありません。むしろ、CRMが解決できる範囲と、旅行会社が抱えている課題の範囲が、もともと一部しか重なっていなかったことが、導入後に見えるようになったということです。

原因は機能不足ではなく、「顧客軸」と「案件軸」のズレです

CRMは、その名のとおり顧客関係の管理ツールです。設計の中心にあるのは顧客であり、そこに問い合わせ、商談、取引の履歴がぶら下がる構造になっています。この構造は、顧客との関係が長く続き、そのあいだに複数回の取引が発生するビジネスに最適化されています。

一方、旅行会社の実務は案件を軸に回ります。1件の旅行という単位のなかに、見積、旅程、予約手配、社内承認、請求という工程がすべて含まれます。この案件は数週間から数か月にわたって生き続け、そのあいだに何度も内容が変わります。人数が増える、ホテルのグレードが変わる、天候で行程が組み替わる。そのたびに、見積と旅程と手配のすべてに影響が及びます。

軸が違うということは、情報の入れ物の形が違うということです。

顧客軸の入れ物には、「この顧客とどんなやり取りをしてきたか」が入ります。案件軸の入れ物には、「この案件のどの工程が、いまどうなっているか」が入ります。前者は履歴の蓄積であり、後者は状態の管理です。性質がまったく違うため、片方の入れ物にもう片方を無理に収めようとすると、どこかに歪みが出ます。

さらに旅行業では、顧客と案件が1対1になりません。1人の顧客に複数の案件がぶら下がることもあれば、1つの案件に法人の窓口担当と実際の参加者という複数の関係者が関わることもあります。顧客を主キーにして情報を並べると、案件の全体像がかえって見えにくくなる場面が出てきます。

ズレが表面化する3つの場面

抽象的な話に留めても判断できないので、具体的にどこで詰まるかを挙げます。

場面1:見積の内訳が入らない

CRMの商談レコードには、金額を入れる欄があります。しかし旅行業の見積は、宿泊、車両、ガイド、食事、入場料といった項目の積み上げでできており、それぞれに仕入原価と販売価格があります。この構造をCRMの標準機能で持たせるのは現実的ではありません。

結果として、見積は表計算ソフトで作り、合計金額だけをCRMに転記する運用になります。この時点で、正しい見積の在り処はCRMの外です。金額が変わるたびに両方を直す必要があり、片方の更新が漏れると、CRMの数字が実態とずれます。

場面2:旅程の版が管理できない

旅程はCRMの外で作られます。文書作成ソフトやプレゼンソフト、あるいは専用のデザインツール。作られたPDFはメールに添付され、共有フォルダに置かれます。

問題はここからです。旅程は何度も改訂されます。第3案まで出したうち、顧客に送ったのはどれか。最新版はどのファイルか。CRMの活動履歴には「旅程を送付」と書かれていても、その旅程の中身とは繋がっていません。担当者が休んだ日に顧客から「先日いただいた案の2日目を変えたい」と連絡が来たとき、どの案を指しているかを特定するところから始めることになります。

場面3:手配の進捗が案件から見えない

ホテル、車両、ガイド、レストラン。それぞれへの依頼と回答は、個別のメールや電話でやり取りされます。CRMは顧客とのやり取りを記録する設計なので、仕入先とのやり取りは記録の対象外か、記録しても案件の工程としては扱われません。

そのため「この案件は、どこまで確定していて、何が未回答か」が一覧で見えません。確認するには、担当者のメールボックスを開くか、担当者本人に聞くことになります。これが、冒頭の「進捗は結局担当者に聞かないと分からない」の正体です。

放置すると、CRMが「入力だけが増える場所」になります

ここからが、この構造問題の厄介なところです。

現場の担当者は合理的に判断します。本当の仕事はCRMの外で進んでいるのだから、CRMへの入力は後回しにする。案件が動いているあいだは表計算ソフトとメールで回し、落ち着いてからまとめて入力する。悪意ではなく、時間の配分としてそうなります。

入力が遅れると、CRMのデータは実態から遅れます。経営層が見るダッシュボードの数字が、現場の感覚と合わなくなります。

そこで打たれる対策が、たいてい入力ルールの強化です。「商談ステータスは当日中に更新すること」「顧客とのやり取りは必ず記録すること」。ルールを増やせば数字は多少そろいますが、現場から見れば、実務の役に立たない入力作業が増えただけです。

こうして、CRMは「経営が見る数字を作るために現場が入力する場所」になります。導入時に想定していた「入力すれば現場も楽になる」という関係が、逆向きになった状態です。この段階まで来ると、次のツール導入を提案しても現場が乗ってきません。「また入力が増えるのか」と受け取られるためです。

自社の課題を見分ける3つの質問

CRMを入れるべきか、案件を管理する仕組みが要るのか。判断のために、次の3つを自社に当ててみてください。

質問1:案件の最新状況を知るために、CRM以外を見に行っていますか

メールボックス、共有フォルダ、担当者への口頭確認。CRMを開いても分からず、別の場所を見に行っているなら、案件軸の情報がCRMの外にあるということです。

質問2:CRMに入っている金額は、実際の見積書と一致していますか

一致していない、あるいは「たぶん合っているはず」という状態なら、見積の正本がCRMの外にあり、二重管理が発生しています。

質問3:担当者が1週間休んだとき、CRMだけで案件を引き継げますか

引き継げないなら、案件を進めるために必要な情報が、CRMに入る形になっていません。

3つのうち2つ以上が当てはまる場合、課題は顧客軸ではなく案件軸にあります。CRMの設定を作り込んでも、この領域は埋まりません。埋めようとしてカスタマイズを重ねると、費用も運用負荷も膨らみます。

逆に、3つとも問題がなく、それでも「顧客の傾向が分からない」「リピート施策が打てない」という課題があるなら、それは顧客軸の課題です。この場合はCRMの活用度を上げるほうが近道です。

まとめ:CRMを外すのではなく、役割を分ける

ここまでの話は、CRMをやめるべきだという主張ではありません。

CRMは顧客との関係を管理する道具として優れています。旅行会社にも、その道具が必要な領域は確かにあります。ただ、案件の工程を管理する道具ではありません。1つのツールに両方を担わせようとすると、どちらも中途半端になります。

TRAVESENSは、案件を単位として見積・旅程・手配のステータスを繋ぐ業務基盤です。旅程と見積が連動し、登録したコンテンツを検索して再利用でき、手配の進捗を案件の画面から確認できます。開発元のTOKI自身が旅行会社であり、30社以上の旅行会社へのヒアリングを経てプロダクト化されているため、案件軸の情報の持ち方が実務の形に沿っています。CRMと役割を分けたうえで、必要に応じて連携させる構成が現実的です。

まずは、先ほどの3つの質問を自社に当ててみてください。課題が顧客軸なのか案件軸なのかが分かれば、次に検討すべきものの範囲は自然に絞られます。

案件軸の管理を、ひとつの画面で。

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