オーダーメイド旅行の裏側:属人化しやすい業務をどう仕組み化するか

「うちの仕事は属人的すぎて、仕組み化なんて無理だ」。オーダーメイド旅行やラグジュアリートラベルの現場で、最もよく耳にする言葉です。顧客ごとに要望は違い、案件ごとに構成は変わり、ベテランの頭の中にしかないノウハウで品質が支えられている。確かに、この仕事を工場のように標準化することはできません。

ですが、ここには一つの混同が潜んでいます。「標準化できない」ことと「仕組み化できない」ことは、まったく別の問題です。この2つを切り分けられるかどうかが、オーダーメイド旅行の属人化を解けるかどうかを分けます。本記事では、その視点から、属人化しやすい業務をどう仕組み化するかを掘り下げます。

「標準化できない」と「仕組み化できない」を混同していないか

標準化とは、成果物を同じ形にそろえることです。パッケージツアーのように、決まった行程を多くの顧客に提供する。オーダーメイド旅行が標準化できないのは事実であり、むしろ標準化してはいけません。顧客ごとに最適な体験を設計することこそが、その価値だからです。

一方、仕組み化とは、成果物にたどり着くまでの情報と工程を、誰もが扱える形に整えることです。整えるのは「アウトプット(旅行そのもの)」ではなく、その手前にある「インプット(情報)」と「プロセス(業務の流れ)」。ここを混同しているために、「標準化できない=何も仕組み化できない」と思い込み、属人化を温存してしまう会社が少なくありません。

なぜいま、属人化のツケが回り始めているのか

属人化は、問題が起きないうちは強みに見えます。ベテランの経験とサプライヤーとの人脈で、高品質な旅行を提供できる。けれども、その強みが弱点に変わるタイミングが、近年は早く訪れるようになっています。

背景には業界の変化があります。インバウンドの富裕層需要が伸び、案件は増えながら複雑化しています。同時に人材の流動性は高まり、エース担当者が突然抜けることも珍しくありません。その瞬間、その人の頭の中にあった顧客の好み、過去案件のパターン、サプライヤーとの関係が、一度に失われます。

リスクが表面化する典型は3つあります。①エース担当者の退職や異動。②繁忙期の案件急増で、個人の処理能力を超えること。③そして、別拠点やパートナーへ事業を広げる際に、言語化されていないノウハウが引き継げないこと。いずれも、業績が好調なときほど突然やってきます。

実際に多いのが、長年VIP顧客を担当していたベテランが退職し、引き継いだ担当者が「前回どの宿に泊まり、何を気に入っていたのか」をたどれずに対応の質が落ちる、というケースです。顧客は前任者との関係で会社を選んでいたつもりはなくても、対応の細部が変われば「以前と違う」と敏感に感じ取ります。属人化の本当の怖さは、その損失が起きるまで誰も金額として認識できないことにあります。

「標準化=画一化」という誤解が改善を止めてきた

仕組み化が進まない最大の理由は、コストでも技術でもなく、現場の感情です。長年オーダーメイドを手がけてきた担当者ほど、「仕組み化=自分の仕事を画一的なマニュアルに落とすこと」と受け取り、職人としての誇りを否定されるように感じます。

この警戒は、ある意味で正しいものです。提案の方向性や臨機応変な対応まで型にはめてしまえば、オーダーメイドの価値は失われます。問題は、その警戒が「だから何も変えない」という結論に直結してしまうことです。守るべき判断と、手放してよい作業を分けないまま、すべてを個人の中に抱え続ける。これが、改善が進まないまま属人化だけが深まっていく構造です。

仕組み化すべき「作業」と、人に残す「判断」を切り分ける

ここで必要になるのが、業務を「作業」と「判断」に切り分ける視点です。

仕組み化すべき「作業」は、誰がやっても同じ結果になるべき部分です。顧客情報やコンテンツ、過去案件のデータベース化。見積作成から手配完了までの工程と承認ルートの明確化。旅程のパーツ、確認チェックリスト、定型メールといったテンプレートの整備。これらは個人のファイルやメモに置く必然性がなく、共有の仕組みに移すほど全体の品質が安定します。

人に残すべき「判断」は、その人だからこそ価値が出る部分です。顧客に何を提案すべきかという方向づけ、サプライヤーとの信頼関係の構築、想定外が起きたときの臨機応変な対応。ここは型にはめず、むしろ作業を仕組み化して捻出した時間を充てるべき領域です。

具体的に見ると分かりやすくなります。たとえば、富裕層顧客向けに京都の特別な滞在を組む案件。「この顧客には静けさを重視した茶室体験を中心に据える」と決めるのは判断です。一方で、過去に使った茶室や料亭の情報を引き出す、見積に手配先の費用を反映する、変更が入ったら関連する予約をすべて更新する——これらはすべて作業です。判断は担当者の経験が光る場面ですが、作業まで個人の記憶に依存させる必要はありません。むしろ作業が仕組みで支えられているほど、担当者は判断に時間を使えます。

この切り分けは、机上の理屈ではありません。TRAVESENSは、インバウンドのラグジュアリートラベルを手がける株式会社TOKIが、自社の業務課題を解くために作った社内ツールを原型としています。コンサル出身者を含むチームが、旅行会社30社以上の現場をヒアリングしながら「どこを仕組みに移し、どこを人に残すか」を実際に切り分けてきた知見が、プロダクトの設計思想に反映されています

切り分けを実務に落とす3ステップ

では、自社でこの切り分けをどう始めるか。重いプロジェクトにする必要はありません。

第1に、棚卸しです。直近の案件を2〜3件取り出し、各工程で「何をしたか」「何を参照したか」「何を判断したか」を書き出します。記憶が新しい案件を選ぶと、抜け漏れが少なくなります。

第2に、色分けです。書き出した内容を、他の担当者でも再現できる部分と、その担当者だからこその判断部分とに分けて印をつけます。この作業だけで、自社の属人化がどこに集中しているのかが見えてきます。

第3に、移行です。再現できる部分から、テンプレート化・データベース化を進めます。よく使うコンテンツ、頻出の確認事項、典型的な旅程パターンを、個人のファイルから共有の仕組みへ少しずつ移していきます。一度にすべてを移そうとせず、効果の大きいものから着手するのが現実的です。

この蓄積が進むほど、新しい案件で「ゼロから考える」割合が減り、「蓄積を活かして判断に集中する」割合が増えていきます。

まとめ

オーダーメイド旅行は、標準化できません。けれども、仕組み化はできます。両者を切り分けられないままでいると、「標準化できないから」という理由で、本来は仕組みに移せる作業まで個人に抱え込ませ、属人化を深めてしまいます。

属人化の解消は、ベテランのノウハウを否定することではありません。その人にしかできない判断に集中してもらうために、誰でもできる作業を組織の資産として外に出す——その切り分けこそが、オーダーメイド旅行の品質を、人ではなく組織で守るための第一歩です。まずは案件を数件、棚卸しするところから始めてみてください。

TRAVESENSについて

業界特化型SaaSの中でも、TRAVESENSは旅行実務に根ざした設計が特徴です。開発元のTOKIがインバウンドのラグジュアリートラベルを運営する旅行会社であり、30社以上のヒアリングを経てプロダクト化されています。上記5つの比較軸でいえば、業務フロー全体の接続性、コンテンツの蓄積と再利用、現場定着のしやすさに強みがあります。ツール選定の候補に加えるかどうかを判断するために、まずは無料デモで実際の操作感をご確認ください。自社の業務フローに沿ったシナリオでの操作を体験いただけます。

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